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大阪高等裁判所 昭和55年(ラ)254号 決定

抗告人 黒田運送株式会社

右代表者代表取締役 福岡光雄

右代理人弁護士 西山要

同 岸本昌己

同 小林廣夫

相手方 藤井専蔵

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。本件検査役選任申請を却下する。手続費用は一、二審とも相手方の負担とする。」との裁判を求めるというにあり、その理由の要旨は、「原決定の理由とするところは、抗告人の定款に決算日は毎年三月二〇日、定時株主総会は毎決算期の翌日より三月以内に招集すると定めてあるにもかかわらず、昭和五二年五月二〇日以来一度も株主総会を開いておらず、また、第二六期(自昭和五三年三月二一日、至同五四年三月二〇日)決算報告書が作成されず、かつ定時株主総会にも提出されていない、右各事実は商法二三四条、二八一条、二八三条の各規定及び抗告人定款に違反する重大な事実というべきであるから、商法二九四条一項により検査役を選任するというにある。しかしながら、商法二九四条一項にいう「法令若ハ定款ニ違反スル重大ナル事実」に該当するか否かは、形式的に一律に判断すべきではなく、会社の規模、株主構成、同種同規模の会社における実情等を総合して具体的に判断されるべきところ、原審は抗告人会社における株主が僅か三人で、しかも、その内の一人である代表取締役福岡光雄以外には実質的な出資者がおらず、また日常的会社業務についても全ての責任が同人に負わされているという実情を無視して、同条の「重大ナル事実」に該ると判断した。右抗告人の実情よりすれば、原審が認定した前記各事実をもってしては、いまだ右「重大ナル事実」に該当するとはいえない。したがって、原決定は違法でありその取消を求める。」というにある。

二、当裁判所の判断

記録によると、次の事実が認められる。

(1)  抗告人会社は、昭和二八年一二月二二日一般小型貸切貨物自動車運送事業等を目的として設立された株式会社であり、発行済株式の総数は一万二〇〇〇株、資本の額は金六〇〇万円であって、その定款には、営業年度は毎年三月二一日から翌年三月二〇日までの年一期とし、営業年度の末日を決算期とする、定時株主総会は毎決算期の翌日より三月以内に招集する、取締役及び監査役の任期は就任後二年内の最終の決算期に関する定時株主総会終結のときまでとすると定められている。

(2)  相手方は抗告人会社の発行済株式の総数の一〇分の一以上にあたる四〇〇〇株を有する株主である。

(3)  相手方は昭和五二年二月一一日抗告人会社の代表取締役に就任したが、同年五月二〇日代表取締役を辞任していわゆる平取締役となり、同日相手方に代って福岡光雄が代表取締役に就任し現在に至っている。

(4)  抗告人会社の定時株主総会は、昭和五二年五月二〇日相手方が代表取締役在任当時に開催されて後、現在の代表取締役福岡光雄が代表取締役就任した後、少くとも、昭和五三年三月二一日から同年六月二〇日までに一回、昭和五三年三月二一日から同年六月二〇日までに一回招集、開催されなければならないにもかかわらず、一回も開催されておらず、かつ、昭和五二年三月二一日から同五三年三月二〇日までの第二五期及び昭和五三年三月二一日から同五四年三月二〇日までの第二六期に関し商法二八一条所定の計算書類を作成しておらず、また、同法二八三条による計算書類を定時株主総会に提出してその承認を求める手続がされていない。

(5)  抗告人会社代表取締役福岡光雄は昭和五二年五月二〇日に取締役に就任し既に二年間の任期が満了しているにもかかわらず、株主総会を招集、開催して取締役を選任する手続を怠り、代表取締役たる地位にとどまっている。

(6)  抗告人会社代表取締役福岡光雄は昭和五二年一二月頃入院して手術を受けたが、その治療費中個人で負担すべき約一〇〇万円を抗告人会社の資金から支出した。

(7)  抗告人会社は昭和五三年三月二一日から同五四年三月二〇日までの第二六期では、年間売上高約二億円、年間損失一三〇〇万円(利益なし)の小規模赤字会社であるにもかかわらず、代表取締役福岡光雄に対し役員報酬として年間約一〇〇〇万円を支出した。

以上の事実が認められるところ、右(4)の事実は商法二三四条、二八一条、二八三条及び抗告人会社定款に違反し、右(5)の事実は商法二五四条、二五四条の二、二五六条及び抗告人会社定款に違反し、右(6)の事実は商法二五四条、二五四条の二、民法六四四条に違反しかつ不正行為の疑いがあり、右(7)の事実は商法二五四条、二五四条の二、民法六四四条に違反する疑いがあると認められる。よって、抗告人会社の業務の執行に関しては、商法二九四条一項所定の「不正ノ行為又ハ法令若ハ定款ニ違反スル重大ナル事実アルコトヲ疑フベキ事由」があるものと解するのが相当である。

抗告人は、抗告人会社の業務執行に関し法令若は定款に違反する事実があったとしても、代表取締役福岡光雄以外に実質的な出資者がおらず、日常的会社業務については全ての責任が同人に負わされている等の抗告人会社の実情からすれば商法二九四条一項にいう「重大ナル事実」には該当しない旨主張するが、記録によれば、少くとも相手方は抗告人会社の実質上の株主であることが認められるのであって、前記認定にかかる(4)ないし(7)の事実が商法二九四条一項にいう「重大ナル事実」に該当しないものということはできない。よって、抗告人の主張は採用することができない。

したがって、原決定は相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 菊地博 庵前重和)

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